5.本書の構成
本書は,2部9章から構成されている。第1部「モダリティの体系」では,日本語のモダリティの体系を論じる。そのために5つの章を立てることにする。第1章,すなわち本章では,本書の目的,モダリティに関する基礎概念や多様な考え方,本書の基本的立場について略述した。第2章では,関与という概念に基づいて,日本語のモダリティの分類を行う。第3章から第5章では,第2章で提案されるモダリティの下位類のうちの,「主体関与型モダリティ」,「事態関与型モダリティ」,「命題関与型モダリティ」について,個別に検討を加える。
第2部「認識のモダリティ表現の諸相」では,「だろう」,「かもしれない」,「はずだ」,「ようだ」,「らしい」,「(し)そうだ」など,認識のモダリティ表現を取り上げて考察する。第6章では,「だろう」の「推量」の意味について考える。第7章では,「かもしれない」の諸用法を観察する。第8章では,推論の様式に焦点を当てて「はずだ」を検討する。第9章では,証拠性の観点から「ようだ」,「らしい」,「(し)そうだ」について論じる。
本書の構成は,以上の通りである。なお,本書は,筆者の以下の論文を下敷きにして,現在の筆者の観点から大幅な加筆・修正を施したものである。
・「ダロウと「吧ba」の対照研究-言語行為論の立場から-」,杏林大学修士学位論文.(2006)
・「認識的モダリティの再定義-「だろう」と「推量」から見る認識的モダリティ-」,『大学院論文集』5.(2008a)
・「ハズダと認識的モダリティのための認知心理的な分析モデル」,『言語と交流』11.(2008b)
・「「かもしれない」の諸相」,『大学院論文集』6.(2009)
・「モダリティ分類の一試案-文法化の研究成果と「関与」の概念による-」,『言語と交流』13.(2010a)
・《日语情态表达的语法化路径——常见语法化路径的反例》,《日语学习与研究》6.(2010b)
・「日本語の証拠性表現-証拠存在明示とソース明示-」,『大学院論文集』8.(2011a)
・「モダリティの体系と認識のモダリティ」,杏林大学博士学位論文.(2011b)
第1章 の注
①日本語訳は,Hopper&Traugott(2003)の初版の訳本(Hopper, P.J.and E.C.Traugott.(1993).Grammaticalization(1st ed.).Cambridge University Press.日野資成(訳)(2003)『文法化』九州大学出版会.)による。
②Heine&Kuteva(2002)によれば,これら以外にも,「ARRIVE(‘arrive at',‘reach')>ABILITY」,「DO(‘to do',‘to make')>OBLIGATION」,「GET(‘to get',‘to receive',‘to obtain')>ABILITY」,「GET(‘to get',‘to receive',‘to obtain')>OBLIGATION」,「GET(‘to get',‘to receive',‘to obtain')>PERMISSIVE」,「GET(‘to get',‘to receive',‘to obtain')>POSSIBILITY」,「KNOW>ABILITY」,「LEAVE(‘to leave',‘to abandon',‘to let')>PERMISSIVE」,「MIRATIVE>EVIDENTIAL, INFERENTIAL」,「SUITABLE(‘to be sufficient, enough',‘to be fitting',‘to be suitable')>ABILITY」,「SUITABLE(‘to be sufficient, enough',‘to be fitting',‘to be suitable')>OBLIGATION」などのモダリティ表現の文法化の経路がある。
③ちなみに,中右(1999:28)によれば,「英語のmodalityが日本語の「モダリティ」として市民権を得た」のは,中右(1979)に端を発している。
④玉地(2008:64-65)でも,「日本語のモダリティにおいては「行為拘束的モダリティ」と「認識的モダリティ」の間に多義性が存在しない」とされている。
⑤モダリティ表現の多義性と非多義性,単義的アプローチと多義的アプローチの詳細については,黒滝(2005:75-95),岡本(2005:11-21),澤田(2006:165-190)などを参照されたい。