
第一章 上代の文学
思考問題
1大陸文化の伝入は日本文学にどんな影響を与えたのか。
【答案】①大陸文化の伝入により、格調の高い飛鳥文化・白鳳文化や絢爛の天平文化など、大陸の影響を強く受けた異国的な文化が栄えた。②仏教の伝来は、宗教といえるほどのものをもっていなかった日本人の精神的土壌に大きな影響を及ぼした。③漢字・漢籍の伝入により、漢文学が次第に隆盛し、文学に対する個人の関心や意識も強くなっていった。また、その影響により、「万葉仮名」や「宣命書き」などが発明された。文字の使用は口承文学の記録を可能にし、個人の芸術的感動の所産を文学として定着させる役割を果たした。日本文学は、これにより記載文学の時代へと移っていった。
2この時代の文学の特色をまとめてみよう。
【答案】上代の文学は民族の生活に深く結びついた口承文学から記載文学へ、集団的文学から個人的創作の文学への発展であった。
3史伝の『古事記』と『日本書紀』にはどういう違いがあるのか。
【答案】①『古事記』は神話を主とし、『日本書紀』は天皇の事跡や国家発展の歴史的記述に重点を置いている。②『古事記』が漢字の音と訓との併用による日本国文脈であるのに対し、『日本書紀』は一字一音式の表現の歌謡を除き、純漢文である。③『古事記』の性格が曖昧で断定できないが、『日本書紀』は日本古代国家の正史としての権威が高い。
4時代と作品の縦横の関係について考えてみよう。
【答案】①作品は時代に応じて生まれ、時代の特徴を反映する。8世紀になってから、大和政権は、地方に分立する各氏族を皇室中心の系譜の中に位置づけ、自らの権力強化を図るため、史書・地誌の編纂を行い、記録した。そこで、『古事記』、『日本書紀』、『風土記』、『万葉集』などが生まれた。②『万葉集』を例にとってみると、時代の変遷により、その歌風が四期に分けられる。壬申の乱前後までの動乱の時代には民謡的な色彩が濃く、集団的な歌謡から個性的な創作歌への過渡した。律令国家の成立に伴って、万葉調の完成期に入った。律令政治の安定期に、個性に富む作品が開花し、歌が文学作品として深化した。天平文化爛熟期・社会矛盾拡大期に、繊細・幽寂な作品が多くなり、歌が貴族社会の社交の具として用いられ始めた。
5『万葉集』の時代的な意義はなにか。
【答案】①『万葉集』は現存する日本最古の和歌集。②氏族的・集団的な歌謡から個人の意識が目覚め、個人の思索と美意識に富んだ芸術的所産を記録するようになった時代において、『万葉集』は個人的叙情詩の集大成ともいうべきである。③万葉仮名で表記された歌は「ますらをぶり」と呼ばれる素朴・雄大で簡明な歌風であり、民謡性、自然観照性に富んでいる。
練習問題
次の各質問に答えよ。
1朝廷に仕え、旧辞や伝説を語った職人を何と言うか。[ ]
【答案】語り部
2『古事記』を誦習していた人はだれか。[ ]
【答案】稗田阿礼
3同じく『古事記』を選録した人はだれか。[ ]
【答案】太安万侶
4最初の官選歴史書で、舎人親王らが編集した作品は何か。[ ]
【答案】日本書紀
5元明天皇が、地名の由来・産物・地形・古老の伝承などを集録せしめた地誌書を何と言うか。[ ]
【答案】風土記
6儀式の際に用いた詞章を「祝詞」と言うが、天皇が国家の大事件に当たって臣下に発した勅命は何か。[ ]
【答案】宣命
7山上や海辺に男女が集まり、歌舞に興じて結婚相手を選んだ古代の風習を何と言うか。[ ]
【答案】歌垣
8『万葉集』の三部立ては、雑歌・相聞歌・[ ]である。
【答案】挽歌
9『日本書紀』について、
(1)何世紀に成立したか。[ ]
①七世紀
②八世紀
③九世紀
④十世紀
⑤十二世紀
【答案】2
(2)その編者はだれか。[ ]
①空海
②舎人親王
③聖徳太子
【答案】2
10『古事記』とほぼ同じ時代に編纂された、現存する日本最古の漢詩集の名を次から選べ。[ ]
ア 凌雲新集
イ 経国集
ウ 懐風藻
エ 性霊集
【答案】ウ
11『万葉集』はいつの時代にできたか。正しいものを選べ。[ ]
A.飛鳥時代
B.奈良朝時代
C.平安朝時代
D.鎌倉時代
【答案】B
12次の人名の中で、『万葉集』の作者以外のものを一つ選べ。[ ]
A.額田王
B.柿本人麻呂
C.山部赤人
D.笠金村
E.紀貫之
【答案】E
13柿本人麻呂と同じ時期に活躍した歌人を、次の中から一つ選べ。[ ]
A.在原業平
B.高市黒人
C.大伴家持
D.阿部仲麻呂
E.紀貫之
【答案】B
14山上憶良と最も近い時期に活躍した人はだれか。次の中から一つ選べ。[ ]
A.天武天皇
B.額田王
C.柿本人麻呂
D.大伴旅人
E.大伴家康
【答案】D
15『万葉集』の中で「辺境防備にかりだされた兵士」とその家族が歌ったのは何か。漢字で書け。[ ]
【答案】防人歌
16次の文章の空欄を補うのに最も適当なものを後から選べ。
人麻呂以降、叙景歌を完成した山部赤人、酒と旅の歌を残した大伴旅人、家族を愛し運命や社会の矛盾に激しい感情を向けた[ア]、伝説や説話を長歌で歌って、その世界に自己の心情を託した[イ]など、個性的な歌人が活躍した。
ア A.額田王
B.高市黒人
C.大伴家持
D.山上憶良
イ A.有間皇子
B.高橋虫麻呂
C.舒明天皇
D.凡河内躬恒
【答案】(ア)D (イ)B
17「銀も金も玉も何せむに勝れる宝子に及かめやも」
ア(a)この歌の作者はだれか、(b)またこの作者と作歌活動の時期が最も接近している二人はだれか。
A.大伴旅人
B.大伴家持
C.柿本人麻呂
D.紀貫之
E.西行
F.藤原定家
G.源実朝
H.山上憶良
I.山部赤人
(a)=[ ]、(b)=[ ][ ]
【答案】(a)H、(b)A・I
イ この歌が収められているのは次のどれか。
A『金槐集』
B『古今和歌集』
C『古事記歌謡』
D『山家集』
E『万葉集』
F『梁塵秘抄』
【答案】E